引き続き、私が影響を受けた先生・経験について書いていきます。
今回は、「野口体操」です。
非常にマイナーな体操なので、ご存じの方は少ないと思いますが、
私にとっては「柔らかい動き」といえば野口体操をイメージする位の存在です。
私の理解している範囲で簡単にご紹介します。
野口体操は、野口三千三という方が創作されました。
野口三千三は、戦前は体育の教師で、戦場に送る兵士(=兵器、戦場機械)としての若者の錬成を担当していました。
戦後はその反省から、機械の一部としてではなく、自然の一部としての人間のあり方を追求し、生まれたのが野口体操です。
東京芸大で教えてらしたので、芸術・芸能系の方の中では比較的知られていた時期もあったようです。
野口体操では、生命の根本はアメーバであり、人間の身体もそれに近いものと捉えます。
構造体としての骨があり、それを神経と筋肉が動かし、周囲を皮膚がカバーしているとする機械的な身体観ではなく、
身体=水袋=皮膚に包まれた体液の中に骨や内臓が浮かんでいる、と考えるのです。
そして、水袋としての身体が持つ本来の柔らかさが十全に発揮される動きが、生命の本質的な動きに最も近いとします。
この人間観、身体観に、戦前のご自身の経験の反省が込められているのではないでしょうか。
現代の学校でも、戦前的な「体育」指導が行われているように感じる私にとって、野口体操の価値は変わらず存在すると思うのですが、その特異性ゆえか、残念ながらあまり普及していません。
創始者の野口三千三先生は既に亡くなっており、私は野口先生の教室を継がれた先生から習っておりました。
武道学館では、私のクラスで時々野口体操の動きを取り入れることもありますが、普通の柔軟や空手の動きでも、水袋的なイメージでご自身の身体を味わいながら(野口体操では「からだに貞(き)く」と表現します)動いていただくと、新しい発見があるかもしれません。